海外駐在員の大変さの側面は、語られにくい・・・
海外駐在をすることの魅力は、例えば、海外でのキャリアの幅出し、異文化での業務経験、語学力の向上、海外での生活体験など様々な魅力があることが、認知されているように思います。
私自身も、「キャリアのハイライトはいつか?」と聞かれれば、真っ先に東南アジアでの駐在経験が思い浮かびます。
それくらい、魅力があり有意義な経験であったことは間違いありません。一方で、海外駐在が大変であることも間違いないのですが、海外駐在員の大変さは、実はあまり語られていないようにも感じます。
これは、海外駐在経験者が、未経験者に話しをする場合「駐在生活は、これこれ、こういう点で面白かった!有意義だった!」と伝えることの方が多く、ことさらに深く話しをしない限り、その駐在経験の「大変さという側面」は、スポットが当たりません。
プライド高き駐在経験者からすれば、後輩に、自分の実績を自慢したいシーンでしょうから、敢えてネガティブな発言をしないということも容易に想像ができます。 誰だって自分の実績はよく伝えたいものです。
さて、今回は、言語ができなくて大変だ、現地スタッフと異文化のコミュニケーションをとるのが大変だ、時差があって大変だ、アテンド会食が多くて大変だというような、イメージしやすい駐在の大変さではなく、「経験しないと、実感としてわからなかったなあ」という種類の大変さについて解説させていただきます。
いずれも自分自身が赴任する前に理解が少しでもあれば、もっとラクに立ち回れたのではないかと思うことばかりです。
これらは、駐在員の能力が高い・低いから起こっているということでなく、海外駐在員という立場や、組織の構造上、どうしても起こりやすい問題であるということです。これから海外駐在に行かれる方に、ぜひ読んでいただきたいです。
海外駐在のここが大変!事前知識でリスクヘッジ
海外駐在員のここが大変【1】 役割・責任が急激に重くなる
一般的に、海外駐在員は、本社からのマネジメント職として赴任することが多いように思います。日本の、年功序列型ピラミッドの中で育ち、本社にいればまだまだ平社員の年次だとしても、海外駐在となると、一気に管理職となるということです。
昨日まで、上司の指示の元、工夫して業務にあたり結果を出していれば100点だった立場が、現地で、自分よりも一回り、場合によっては二回りも年上の経験者を部下としてうまく扱わなくてはいけない立場になります。
そして、日本では経験しないようなシビアな目標設定と評価、そして給与査定をしなくてはいけません。
現地スタッフの部下からすれば、「あっ、また本社から社員が派遣されてきたよ。またどうせ3年くらいで帰るんでしょ。」というような目線の中で、上司部下としての信頼関係を築き、業務を滞りなく回していくのは、簡単ではありません。
逆説的に言えば、それほどチャレンジングで大変なことであるからこそ、若くてもマネジメント経験を積めるという意味で、海外駐在を経験することは、大きなメリットであると考えます。
海外駐在員のここが大変【2】 本社が敵に見えてくる現象
「OKY」という言葉、ご存じですか?海外駐在員がしばしば、本社との連携の難しさを語るに使われる「お前が(O)、ここに来て(K)、やってみろ(Y)」の略です。
どれだけIT技術が発達し、ちょっと疑問があればSkypeやZoomでコンタクトが取れる世の中になったとしても、このOKY問題は根強く残っています。
なぜなら「本社」と「現場」という、同じ会社でありながら「立場」が異なるという構図は変わらないからです。
例えば、本社としては、「このプロジェクトをAという方法で、これだけの予算をつけるから、いつまでに達成してほしい」という方針があり、それが本社としての「正」です。
そして、そのプロジェクトを上手く回すために派遣されているのが海外駐在員です。
しかし、現場はいつも上手くいくとは限りません。むしろ、うまくいくことの方が稀です。
問題が起これば、現場には現場なりの、上手くいかない事情や理由があるわけですが、それを本社に伝えようとしても、なかなか上手伝わらないわけです。
ビジネスに対峙するプロセス、やり方、マインド、すべてが違うわけですから、伝わらなくて当たり前と言えば当たり前かもしれません。そして、本社のやり方で、現場を動かそうとしても、動かないわけです。
現地のマネージャーでありながら、本社からのミッションを背負っているという点で、海外駐在員は「本社と現場の板挟み」となります。
海外駐在員のここが大変【3】 海外駐在員は誰を見て仕事をするのか?
現場で普段接する上司が、自分の評価者ではないというような状況が、海外駐在員はあり得ます。
日本であれば普段からコミュニケーションをとる課長や部長が、評価者となり自身の評価を決定するケースが殆どだと思いますが、海外駐在員となると、必ずしも海外の現場で普段コミュニケーションをとる上司「的」な役割の人が、評価者となっていないようなケースも多いということです。
組織の都合上、評価者が第三国にいたり、本社にいたりするわけです。普段殆どコミュニケーションがないにも関わらず、評価を突然されても違和感が残ります。
前章の本社との連携の難しさとも関連しますが、「自分はどこを向いて、誰のために仕事をすべきなのか?」という難しさがあるということです。
各社様々な評価制度の下、海外駐在員の評価を行っている為、一概には言えませんが、海外駐在員の難しさの一面としてよく話題に上がります。
海外駐在員のここが大変【4】 駐在先は、クローズドなコミュニティになりがち
本社であれば、大きな組織の中、所属する組織にも、たくさんの同僚、先輩、上司がおり様々なコミュニケーションが生まれると思います。
一方、海外駐在員となると、ローカルスタッフを除けば、業務上やり取りをする日本人はごくわずかかと思います。
その様な小さな組織において、日々やり取りする日本人とそりが合わないという状況は、かなり大変です。
昨今、海外駐在員に対するパワーハラスメントなどがネット記事などでも取り上げられ、問題になりつつありますすが、やはりコミュニティが閉ざされている為、相談できる相手が近くにいない、第三者の目が届きにくいなど、パワハラが起こりやすい構造的な環境があるように感じます。
パワーハラスメントとなる例は、極端かもしれませんが、小さなコミュニティの中でうまく立ち回るスキルが求められるということかと思います。
海外駐在員のここが大変【5】 事業会社へ駐在、難易度レベルが違う
「マイノリティー出資の現地事業投資先に、日本から唯一の出向者として駐在する」これが最強に難易度が高い海外駐在形態に思います。
私自身は、現地法人への駐在でしたので、この難しさをリアリティをもって語れないのですが、想像するだけでも、事業投資先への出向は、現地法人駐在員の苦労の比ではないのではないかと思っています。
つまり、出資比率が低く自社のコントロールがほぼ効かないような関係性の中で、日方パートナーとして議決権等のパワーも殆ど発揮できない中、会社をコントロールせよという本社からのオーダーで送り込まれる駐在員ほど、難易度が高いものはないのではないかということです。
ローカルの社員からすれば、このパワーや権限のない駐在員を相手にすることほど無駄な時間はありません(よって、相手にしてもらえません)。
そして、現場で問題があったとしても、同じ立ち位置で相談できるような関係性を築くことが、そもそも相当難しいということのように思います。
ということで、若くしてこのポジションに選ばれたあなた、上手くいかないことが普通というくらいのスタンスで、駐在に臨まれるのが適切です。
上手くいかないことを、決して自分の能力がひくいからだなどと、責めないようにして下さい。
国や地域が変わっても、海外駐在員の苦労は似ている?!
海外駐在員の大変さについて、5点ほど列挙させていただきましたが、何れも海外駐在を経験された方、駐在中の方からすれば、「わかるわかる!」という感じではないでしょうか。
全世界に広がる海外駐在、国や地域は変われど、構造上起こりやすい「大変さ」は似ているようにも思います。
さて、これら海外駐在員の大変さということを列挙しましたが、どうしたらこれらの難易度が高い環境に対峙することができるでしょうか。
「海外駐在を上手く乗り切る為のヒント」こちらについては、こちらを。
【海外駐在員のここが大変】
・役割及び責任が急激に重くなる
・本社が敵に見えてくる現象
・海外駐在員は、誰を見て仕事をするべきか?
・駐在先は、クローズドなコミュニティになりがち
・事業会社へ駐在する、これは難易度レベルが別モノ